アメリカの大学生と孤独

from J.T.Cacioppo et al. / International Journal of Psychophysiology 35(2000)
「孤独の科学」読んでて気になったので元論文にあたってみた。

論文ではオハイオ州立大学の2632人の学生に対し、孤独感の有無と生活環境について調査を実地し、そのうちの5%に対し詳細な心理学実験を行いその結果をまとめている。

まず、全体の調査結果にから、孤独感と相関のある要因を調べるに、
ルームメイトの数、取得単位数、学生団体などへの参加率、運動量とは無相関
ルームメイトとの信頼関係と負の相関
不安感や、人前でしゃべることへの恐怖とは正の相関
であったという。

以下、興味深かった部分を引用するに、

"We first examined the hypothesis that individuals who were lonely simply had less social capital to offer than others. By social capital, we mean the resources they bring to a social interaction - their physical attractiveness, intelligence, height, weight, age, sociaeconomic status, or scholastic achievements. Analyses revealed the groups did not differ on any of these variables."

まずはじめに、孤独な人々は純粋により少ない社会資本しか持っていないのだという仮説を検証した。ここでいう社会資本とは社会的な魅力を構成する要素のことで、具体的には身体的魅力、知性、身長、体重、年齢、社会経済的な状況、または、学業成績を指す。分析の結果、孤独感はこれらのいずれとも相関関係にないことが示された。

The social world also emerged as a less rewarding place for lonely individuals. Lonely relative to embedded individuals, reported comparable social desirability motives but had less secure adult romantic attachment styles. Lonely individuals were also characterized by greater anxiety, anger(including anger-in), and shyness, less sociability, less optimism, and poorer social skills, and they expressed stronger fears of negative evaluation. Lonely individuals were no less assertive than embedded individuals in terms of the likelihood of a behavior, but they reported much higher levels of discomfort and anxiety about being assertive."

孤独な人間にとって、社会はあまり有益な場所ではない。孤独な傾向のある人は、そうでない人と同程度の社会的交流への欲求を持っていたが、成熟した人間関係を築けていなかった。また、孤独な人々は大きな不安と怒りを抱えていて、内気で非社交的、悲観的、社会的スキルに欠け、否定的評価を受けることを極度に恐れていた。孤独者は特に独断的な行動様式を持っていなかったが、相手の独断的な行動に対しより強い不快感を示した。

The groups were found to differ on four of these subscales: lonely individuals were less likely to actively cope, seek instrumental support from others, or seek emotional support from others and were more likely to behaviorally disengage than were embedded individuals.

(孤独者とそうでない)グループとは4つの点で異なっていた。孤独な人々は問題への取り組み、他人に物質的な助力を求めること、または精神的な援助を求めることにより消極的であった。また、彼らは相対的に諦めやすかった。

以下、孤独感がいかに認知行動に影響を及ぼすかについての実験とその結果の説明が続いているが、やや専門的な内容なので省略。



いくつか補足/コメント。

  • 調査されているのは孤独感との相関であって、社会的孤立それ自体との相関ではない。これは、疾病への抵抗率の低下などの身体的影響を及ぼすのは、孤独感の有無であって、客観的に見た孤立状況それ自体ではないという先行研究によるようである。
  • 調査対象を大学生としたことについて著者は、人間関係の構築にいそしむ時期であること、各人の他者との交流パターンがほぼ確立されていること、友人関係が比較的に閉じていることの3つを挙げている。ただ、やはり大学生の感じる孤独感とその要因は社会人のそれとはやや離れているし、特に寮というのは特殊な環境なので、一般化は難しいと思う。
  • 孤独感と社会資本の量とに相関がないというのは不思議に思える。これについて論文中では何も言及されていないのだけれど、おそらく個々の構成要素に孤独感と正の相関を持つ面と、負の相関を持つ面の両方があるため、結果的に関係がないように見えるのだと思う。例えば、一般に孤独な人間は時間を持て余していて、かつ一人でコツコツと作業するので得意なので、学問やジムでのトレーニングに積極的に取り組むことが多く、その分学業成績や身体的魅力は高くなる。しかし、孤独に自覚的である場合、勉強やトレーニングへのモチベーションを保つことができず、最終的に中途半端な結果になってしまうことが多い。
  • 論文中にあるように、孤独感は自律安定的で、そこから抜け出すのは難しい。「孤独の科学」の本文中でも以下のように述べられている。

「孤独だと回避を主体とし,なるべく接近はしないという、社会的的な戦略をとりがちだが,これもまた、将来に孤独を招くことになる。孤独感によって引き出されるシニカルな世界観は、疎外感に満ち、他人への信頼感がほとんどなく、それが今度は実際の社会的排除の一因となることが立証されている。」

これは難しい問題で、「孤独の科学」の中で作者の述べているいくつかの解決策*1も個人的には有効だとは思えないし、そもそも汎用的な解決策があるかどうかも分からない。ただリア充の以下の定義を見るに、現代社会における人間関係の変化と孤独の拡大について憂慮すべきであるというのは明瞭である。

ネット上でのリア充の定義は「友達が1人でもいるやつ」と発祥場所である大学生活板において定められている。
リア充」 / Wikipedia
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%AA%E3%82%A2%E5%85%85

*1:ジュースを買ったときに、自販機の中に10円玉を1枚残して去るとか。