草食系男子と"Beta Male"

一見「草食系」とは無縁に思えるアメリカ社会でも男性の「草食化」は進行しているようで、"Beta Male"というスラングにその傾向が垣間みれる。その差異については後で考察するとして、"Alpha Male/Beta Male"という言葉は概ね「肉食系男子/草食系男子」と対応関係にあるとみなせる。
 "Alpha Male"というのは元々哺乳類(特に霊長類)の群れのリーダーを努めるオスを指す用語で、例えば猿山のボスザルは"Alpha Male"である。これが転じて最近では、イケメン・リア充・肉食系みたいな意味のスラングとなっている。
例えば、Urban Dicitionaryでは、

One of the 10% of males who engages in 90% of the total fucking.
全セックスの90%を行っている上位10%の男性のこと。
http://www.urbandictionary.com/define.php?term=alpha%20male

という直接的な定義が与えられている。
 一方、"Beta Male"の方は、その反対の男を指す造語で、再度Urban Dicitionaryをひも解くに、

1,An unremarkable, careful man who avoids risk and confrontation. Beta males lack the physical presence, charisma and confidence of the Alpha male.
Pete knew he was losing the girl he'd just met at the bar to the guy who bought her a drink, but he was too much of a beta male to do anythigng about it.

顕著なまでにリスクと対立とを回避する男性のこと。Alpha Maleの持つ存在感、カリスマ性、自信が欠如している男性を指す。
用例 : 今会ったばかりの女性に別の男が飲み物を持ってきたのを見てピートは彼女を奪われてしまうだろうと感じた。しかし、彼は重度のBeta Maleであるため何もできなかった。

3, The opposite of Alpha male. In modern society an Alpha male not only requires physical prowess, but also confidence and attitude. The Beta male of modern society usually, only has one of these traits, if any. The Beta male tends to be smart, quiet and unconfrontational. If lucky, beta males can get a hot chick once in her 30's, after she's tired of fucking the Alpha Males, and decides to settle down with a beta male for money and stability.
Alpha Males get everything, Beta Males get the left overs. It's a little thing called "Life"..

Alpha Maleの反対のこと。現代社会ではAlpha Maleには勇猛さだけでなく、自信と積極性とが求められる。一方、Beta Maleにはそれらが欠けている。一般にBeta Maleは頭は良いが、無口で非社交的であることが多い。運が良ければBeta Maleも魅力的な三十代の女性と交際できることもあるが、それは彼女らはAlpha Maleとのセックスに飽きて、金と安定のためにBeta Maleに落ち着くことを選んだためである。
用例 : Alpha Maleは全てを手に入れ、Beta Maleはその残りを漁る。この現象は「人生」と呼ばれている。
http://www.urbandictionary.com/define.php?term=beta+male

 上のBeta Maleの定義を見るに、草食系という言葉との微妙な違いが見えてくると思う。第一に草食系という言葉は女性視点から語られることが多いのに対し、Beta Maleは男性視点からのどちらかと言うと自虐的な呼称であること。また、草食系という言葉では恋愛に対する無関心さに重きが置かれているのに対し、Beta Maleはその消極性で特徴づけられている。

 これらの差異は、部分的には日米のGender Equalityの進行状況の違いから説明できる。
 まず日本の場合、社会全体での男女同権の達成は難航しているものの、家庭内での父権の消滅は80年代以降速やかになされた。その結果、社会進出を妨げられたものの家庭内では権力を手に入れた母親が子育てにおいても主導権を掌握し、育児に父親が関与しなくなり、男児に「マッチョさ」が求められなくなった。この点については、以下のtweetが分かりやすい。

エロの氾濫とか社会的理由もあるにはあるけど、草食系男子が増えたのは、育児を任せっきりにされた母親が、自分好みのがっつかない、女子に寄り添うやさしい男を育てようとしたからよ。父親が育児に関わってる男子、側にいなくても父親の存在が分かる家庭は決して草食系ではないかと。って極論過ぎ?
http://togetter.com/li/192151

 アメリカの場合については推測の域を出ないのだけれど、多分男児に「男らしさ」が求められなくなったというのは共通で、女性の社会進出の進行のために恋愛市場における男性優位性が消滅したというのが相違点だと思う。
 日本でも今後女性の社会的自立が広く達成されていけば、草食系男子は自然淘汰されていくはずである。ただ現状では年金の専業主婦優遇などの法的なインセンティブの歪みがあるので、草食系問題はもう少し長引くのかもしれない。